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山田深夜の『電車屋赤城』

山田深夜の『電車屋赤城』_d0172422_11402819.jpg相変わらず鉄分補給がままならない状況である。そんな中、たまに覗く大手古本チェーンB(これでお分かりになるであろう)で見つけたのがこれである。400円の値札の上に105円の値札が重ねて貼られていた。このチェーンの105円均一本の中には、結構絶版本が交じっており、昔買った本で手放したものをまた買ったり、思いもかけないおもしろい本を手に入れたりしている。
この本は2007年に単行本で発行されたものを2011年に文庫化したものだという。鉄道本には注意していたつもりだったが、目こぼししたようである。
物語は、神奈川電鉄の主力1000形電車が新車の3000形に置き換えられる時期で、その保守・点検・整備に携わる人間模様を描いている。七つの章のそれぞれは、登場人物の一人ずつのエピソードからなっているが、それを貫くのが赤城(ギイ)で中心人物である。赤城は電車に小便を掛けた酔客を殴り、懲戒解雇となり姿を消した。3000形の導入に伴い人員の削減行われたが、予算の関係で導入がストップし、残る1000形の整備をするため、その第一人者である赤城の消息を探すことになる。引きこもりを止めた純一、その伯父で下請けの社長三郎、居酒屋牡丹の女将恵、工場仲間の佐島、原口、大物株主のコネを笠に着る加藤、元女性運転士のユカリそして無愛想だが優しい心とプロ並みのギターの腕を持つ赤城。様々な過去を持つ一癖も二癖もある電車屋たち登場人物が飽きさせなく読ませる。
筆者のプロフィールには私鉄に20年勤めたとあり、その知識は確かである。神奈川電鉄のモデルは京浜急行であることも間違いない。文中の1000形はこの京急の主力として1959年から78年まで総勢356両が製造され、2010年まで活躍した1000形であろう。3000形はアルミ車、ワンハンドルマスコン、VVVF車などからこれは京急の新1000形であることもわかる。物語では1000形は消滅し、譲渡されないが、実際には四国の琴平参宮電鉄(文中、讃州電鉄)に12両(下写真)、北総開発鉄道(文中、房総電鉄)に16両が譲渡されている。
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運転士や車掌といった表部隊の人物が主人公ではなく、ホームから下の見えない文字通り縁の下の力持ちにスポットをあてた小説といえる。
京急ファンが読んでも違和感なく、読むことができるのではないだろうか。
by kiraku-an | 2013-06-13 11:42 | 読書